『女郎ぐも日本ふしぎ草子』人間の業と報いを描く、救いのない昔話再解釈

2019年9月19日2025年12月15日

今日ご紹介する漫画は『女郎ぐも日本ふしぎ草子』
この記事を読むと、『女郎ぐも日本ふしぎ草子』が単なる昔話の再構成ではなく、人間の業や報い、どうにもならない感情を真正面から描いた作品であることがわかる。
なぜ読後に「怖い」のではなく「苦い余韻」が残るのか、その理由を感情の構造から読み解いていく。

『女郎ぐも日本ふしぎ草子』ってどんな漫画？

『女郎ぐも日本ふしぎ草子』は、日本の昔話や説話を下敷きにしながら、人間の欲、怒り、哀しみ、執着といった感情を描き直した短編集である。
舞台や設定は昔話的でありながら、描かれるのは教訓話ではなく、感情の行き着く先としての「業」である。

勧善懲悪や救済を前提とした昔話とは異なり、本作では善悪が明確に分かれない。報われる者もいれば、理由もなく破滅する者もいる。
その不均衡さこそが、本作の世界観を形作っている。

幻想的な外見とは裏腹に、描かれているのは極めて現実的な人間の心理である。

作品情報

作品名	女郎ぐも日本ふしぎ草子
作者	戸田誠二
巻数	全1巻
ジャンル	短編集/ファンタジー/童話/昔話
掲載誌	『まんがグリム童話』で2011年から2014年まで掲載

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『女郎ぐも日本ふしぎ草子』の魅力

人間の業と報いが、救いなく突きつけられる構造

本作最大の魅力は、人間の業が「意味づけ」されないまま描かれている点にある。
多くの物語では、苦しみには理由が与えられ、破滅には教訓が添えられる。
しかし『女郎ぐも日本ふしぎ草子』では、その手続きをあえて行わない。

登場人物たちは、欲に負けることもあれば、善意から行動することもある。
だが、その結果が幸福につながるとは限らない。
むしろ本作が描くのは、「そうなってしまった」という事実そのものである。

この構造が読者に突きつけるのは、人間の行動と結果が必ずしも釣り合わないという現実である。
努力したから救われるわけでもなく、悪意があったから罰せられるとも限らない。
そこには因果応報のようでいて、完全には整理されない曖昧さが残る。

だからこそ、本作の読後感は不思議な重さを持つ。
恐怖よりも先に、理解できてしまう感情があるからだ。
「こういう人はいる」「こういう選択をしてしまうことはある」と、否定しきれない共感が生まれる。

怪異や幻想はあくまで装置であり、物語の核心は常に人間側にある。
救いが訪れない話であっても、それを突き放すように描かない点に、本作の静かな誠実さがある。

本作は、人間の弱さを裁かない。ただ、見せる。
その態度こそが、『女郎ぐも日本ふしぎ草子』を単なる怪談集ではなく、「人間の業を描いた物語」にしているのである。

中の人の一言感想

【地獄の鬼】

家族を亡くして盗賊になった母。母の罪を地獄で代わりに受ける娘。悲しいお話。

漫画の旅人

家族を失ったのはとても悲しい事だけれど、それが人を傷つけていい理由にはならない。

【さるかに合戦】

家庭環境に恵まれず荒れた少女のお話。

漫画の旅人

人は環境で変わるという事が良くわかる。
最期は(結果的に)裏切られ絶望のまま殺される。
残された人は同じ事が起きないように少しでも環境を良くするしかない。

【女郎ぐも】

漫画の旅人

男はいつの時代でも美しい女性に弱いんだなと思った。
外国の昔話でもあるように万国共通っぽい。
ハニートラップって人類最古の罠じゃあないのか?
憎しみは憎しみを生み繰り返す。
人を恨むのはやめよう。

【幽霊の酒盛り】

漫画の旅人

コメディイライクなお話。こういう話もないと暗くなっちゃう。

【安珍と清姫】

漫画の旅人

ナナナナー。ナナナナー。安珍ヤリ珍。
やっぱり外見が良いってのは凄まじい才能だと思う。

【おとみーさん】

流行り病で差別と迫害を受けた女性のお話。

漫画の旅人

昔は今よりも病気の知識がなかったために起きた悲劇。
人は知らないものに恐れを抱く。
仕方がないけれどとても悲しい。
最後は幸せになったみたいで良かった。

【ふたつの島】

人より賢いけれど人付き合いが苦手な女性のお話。

漫画の旅人

土地や金を持ってるとわずらわしいとの事だが、そんな経験は一生しないで終わりそうだ。
父ちゃんのアドバイスがとても良い。

【シノの枕】

家庭の事情から奉公人として働くことになった、二人の少女の物語である。

奉公の途中、二人は山奥で道に迷い、偶然見つけた山小屋に身を寄せることになる。
小屋に住んでいたのは、年老いた女だった。
女は二人を哀れみ、一晩泊めてやるという。

その夜、女は奇妙な話を語る。
「南天の木で枕を作り、それを使って眠れば、どんな願いでも叶う」というのだ。

翌朝、目を覚ました二人の前には、女も山小屋も消えていた。
そこに残っていたのは、一本の南天の木だけである。

枕を作ろうとナタを探すが、持っていたはずのナタが見当たらない。
仕方なく、次に来るときは斧やナタを用意しようと約束し、山を下りる。

しかし、斧やナタを持って山に入ると、なぜか南天の木は見つからない。
逆に、手ぶらで来たときに限って、南天の木は目の前に現れる。

どうしても願いを叶えたいと強く願った一人の少女は、ついに無謀な選択をする。
道具がないなら、自分の口で木を削ればいいと考えたのだ。

だが、その願いは叶うことなく、少女は力尽きてしまう。

漫画の旅人

人の想いにつけこんだ恐ろしいババア。
少女が可哀そうすぎる。

【豆ころころ】

漫画の旅人

両親がクズ過ぎて胸糞悪いお話。
最後ちょっとハッピーエンドになっているのが納得いかない。
両親は成敗されるべき。

【幽霊飴】

亡くなった母親が子供のために毎晩飴を買いに来るお話。

漫画の旅人

『地獄先生ぬ～べ～』でも同じ話があった。
母親の愛情の深さってスゴイ。

【火ともし山】

恋人のいる男が出稼ぎのために街に行くが、街の遊びにおぼれて恋人をないがしろにするお話。

漫画の旅人

道を踏み外しそうになったけれど、お店の女の子の助言で目を覚ます。
本気の相手には本気で答えないといけないよね。

【狐】

漫画の旅人

特に悪さをするのでなければ化け狐も良いと思う。
化ける能力という、人にはできない能力を活かして幸せに生きてほしい。

恩を恩で返す化け狐のお話。

中の人のあとがき

漫画の旅人

昔話の宿命か。
美人は幸せに。そうでないものは不幸に。
身も蓋もない。
全体的に不幸な話だけれど、それを受け止め前向きに生きようとするお話が多かった。
戸田先生のアレンジが加わった日本昔話。

人間の脳は一万年前の人類と比べて進化していない。
つまり古典の人間的な物語はいつの時代も不変だということ。
12個のストーリーに良くも悪くも「人間らしさ」が濃縮されている。
人生を彩るスパイスとしてぜひご一読ください。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
この記事が『女郎ぐも日本ふしぎ草子』に興味を持つきっかけになれば幸いです。