この記事を読むと、『スキエンティア』がどんなテーマを持つ作品なのか、各話がどのような問いを読者に投げかけているのかがわかります。
また、物語全体を貫く「科学と心の距離」や「人は何をもって救われるのか」という核心部分についても、要点を押さえて整理しています。
短編集としての読みどころや評価ポイントも理解できるため、購入前の判断材料としても使えます。
『スキエンティア』ってどんな漫画?
『知識』『科学の女神』を意味するスキエンティア。
『スキエンティア』は、「科学が人の心を救えるか」という問いを軸に、さまざまな境遇の人々を描いた短編集である。
舞台は巨大タワーが立ち並ぶ近未来の街。医学や工学が発達し、人の身体や心理に踏み込む技術が当たり前のように存在する世界だ。
だが、科学がどれだけ発展しても、人が抱える苦しみの根本は変わらない。
人類が抱える普遍的な問題が、一話ごとに異なる主人公を通して提示される。
病気、愛情、家族の喪失、承認欲求、薬物、才能の葛藤。
この作品に登場する人々は、いずれも「どう生きるべきか」を問われている。
科学は救いの道具にはなり得るが、人生の舵取りそのものは代わってくれない。
作中では、そうした現実と向き合う姿を淡々と、しかし強く描いている。
派手さはないが、短編ごとの密度が極めて高い。
ストーリーは一見“ブラックな設定”の連続だが、根底にあるのは「人はどのように生きるか」という普遍的なテーマであり、読後には静かな余韻が残る。
短編集として完成度が高く、テーマ性も明快で、重さと希望が同居している作品である。
作品情報
| 作品名 | スキエンティア |
| 作者 | 戸田誠二 |
| 巻数 | 全1巻 |
| ジャンル | SF/オムニバス/ヒューマンドラマ |
| 掲載誌 | 『週刊ビッグコミックスピリッツ』と『月刊スピリッツ』で2008年から2010年まで連載 |
『スキエンティア』のおすすめポイント3点
① 科学が発達した世界で「人間は何を救いとするのか」が多面的に描かれる
『スキエンティア』の最も重要な魅力は、科学技術が高度に発達した社会を舞台としながら、その技術が“万能ではない”という冷徹な前提のもとに物語が組み立てられている点である。
作品世界には、肉体を一時的にレンタルする装置、惚れ薬、鬱を取り除く装置など、現実より数歩進んだ技術が存在する。
だが、これらの技術は人間の抱える根源的な問題──喪失、罪悪感、孤独、承認欲求──を本質的に解決することはできない。
むしろテクノロジーがその問題を可視化し、逆に本人を追い込んでしまう描写さえある。
本作は「技術の凄さ」よりも、「技術があっても人は悩み続ける」という構造を徹底して描く。
読者は、便利になった未来が必ずしも幸福に結びつかないという現実的な問いに向き合わされる。
科学が進むほど、人間の“内側”に問題が押し寄せてくる。
その視点こそ本作の強さであり、他のSF短編集にはない深みを与えている。
② 重いテーマを“短編形式”で鮮やかにまとめる構成力
本作は全七話の短編集であるが、それぞれのエピソードが驚くほど密度の高い構造を持っている。
短編でありながら、キャラクターの背景、葛藤、選択、その結果までも一話の中で明確に描き切る。
これは、テーマが明確に絞られ、かつ “削ぎ落とされた描写” が効果的に配置されているためである。
たとえば「クローン」では、倫理的な問題もありながら、クローンでも娘がいないと自分は生きていけないというエゴのために娘を再び産んで育てる。
クローンの娘は元の娘とは人格が違うので、共通点と相違点が出てくる。
自分のエゴのために産んでしまったクローンの娘の成長を見て、自分はもうくじけないと決意する。
また、「ロボット」では、人生の最後が近づいた時に人は何を思って過ごしていくのか。
当作品の主人公は建築の仕事だった。
自分が手かげた建築物を一つづつパートナーのロボットと見ていき、人生を振り返る。
過剰な説明がないからこそ、「なぜこの選択をしたのか?」が読者の中で反芻され、読後の余韻を強く残
短編集は往々にしてテーマが散漫になりがちだが、本作では「科学は人間の心の代替にはならない」という一本の軸で統一されている。
そのため、各話の印象がぶつかり合わず、作品全体としてのまとまりが生まれている。
短編でここまで重層的な読後感を成立させている点は、高く評価すべき魅力である。
③ 相談・悩み・承認欲求など“現代人の影”を真正面から扱う作品
『スキエンティア』は未来を舞台としたSFであるが、そこで描かれる悩みは極めて現代的で身近である。
むしろ本作で扱われる問題は、2020年代以降の社会が抱える課題がそのまま凝縮されているといえる。
SNSによる承認欲求、恋愛や性の不安、孤独と自己嫌悪、老いと死の恐怖──これらは科学が発展しても消えるどころか、むしろ複雑さを増している。
結局のところ、科学がいくら進歩しても人間の悩みというのは普遍的。
自分自身の精神が健康じゃないと、肉体や科学が進歩しても活かしきれないというメッセージ性。
このように、本作はテクノロジーをただの道具として扱うのではなく、“人間の弱さを照らす光”として機能させる。
読者は未来の話を読んでいるはずなのに、自分の生活に直結した問題として受け止めざるを得ない。
SFとしての面白さと、人間ドラマとしての切実さが同じ比重で存在する点こそ、本作最大の強みである。
第1話 ボディレンタル
全身麻痺の老女が若い女性の身体を借りて働く姿を描く話だが、単なる“若返り願望”物語ではない。
物語の核心は、全身麻痺によって狭まった選択肢の中でも、なお「自分の人生を自分で選ぶ」ことの重さである。
主人公の老女は、肉体の限界を受け入れつつも、人生の最終局面でもう一度だけ自分の力で働きたいと願う。
若い身体を借りて行動する様子は、身体年齢と精神年齢の乖離を鮮明にし、読者に人間の尊厳について考えさせる。
身体を貸した若い女性は、貸した身体で働く老女のバイタリティに感化される。
生きるとは身体の若さではなく「自分で選び、自分で動く意思」だと理解する。
その意志こそが彼女の尊厳の中心にある。
読後に残るのは、科学による身体的補助があっても「自分の人生をどう終えるかを決めるのは本人である」という強いメッセージである。
漫画の旅人人生の最期が近づいた時。
自分は何を思ってどんな行動をするのか。
それには納得が大事だと思う。
どんな選択肢であれ、自分が選んだ選択。
第2話 媚薬
この話は「人を好きになることができない」という現代的なテーマを扱う。
恋愛感情は自然に湧くものと考えがちだが、主人公はそれを一切感じられず、ずっと空虚さを抱えて生きている。
媚薬を手にした主人公は、人工的に恋心を得ようとする。
相手に飲ませるのではなく自分で服用するために。
しかし、薬による「模造された感情」は本物ではない。
薬の効果が切れた後に残る虚しさが、主人公の孤独をより浮かび上がらせる。
本作が提示する問いは明確だ。
「他者を好きになれない自分は欠陥なのか」
「恋愛感情は人間の絶対条件なのか」
主人公の試行錯誤は、読者にも自分の感情の源を問い直させる構造になっている。
結局、主人公が得た答えは単純だが核心を突いている。
人を好きになれないことは“悪”ではなく、ただの“状態”であり、そこからどう生きるかを決めることの方が重要だという点だ。



人を好きになる気持ちってこんなんだっけ?と思った。
やばい。心が枯れている。
第3話 クローン
交通事故で夫と娘を失った女性が、悲しみの果てに娘のクローンを産む話。
核心テーマは「喪失の処理」と「愛の代替は可能か」という問いである。
母親はクローンを「もう一度娘を取り戻す方法」として選ぶが、当然ながらクローンは失った娘そのものではない。
同じ顔、同じ年齢でありながら、人格も経験も異なる存在を前に、母親の心の中で“記憶の娘”と“今いる娘”の差が広がっていく。
作品が描くのは、科学技術が喪失を埋める補助はできても、心の穴そのものは埋められないという現実。
母親は、クローンの娘が「自分とは別の人間」として成長していく過程に直面し、ようやく喪失と向き合う覚悟を得る。
読後に残る重苦しさは、テーマの正しさゆえであり、本作の中でも特に心理的負荷の強いエピソードである。



人生には何か一つ折れない芯がある事が大事だと思った。
泣けます。
第4話 抗鬱機
親の期待に押しつぶされ鬱状態になった青年を描く話。
設定上の科学技術よりも、青年が抱える承認欲求と苦悩が主題である。
青年は「親に認められたい」という強い願望を抱え、それが満たされないまま生きている。
その結果として、主体性を失い、自分の人生を選べなくなっている。
“抗鬱機”は心を整えるための外部補助だが、補助によって一時的に気力が回復しても、根本原因は消えない。
物語が示すのは、他者の期待に応えるために生きることは長期的に必ず破綻するという事実。
青年は、他人から与えられた価値ではなく、自分自身で納得できる価値基準を持たなければならない。
その気づきに至るまでの葛藤が丁寧に描かれ、短編でありながら深い心理ドラマとして成立している。



人に認められたいという思いが強すぎて、自分の事を大事にできなくなっているのが鬱状態を表していて悲しい。
人は親のために生きているのではなく、自分のために生きているということを再認識した。
第5話 ドラッグ
家庭環境が複雑な女子高生が薬物に手を伸ばしていく過程を描く。
この話は、科学技術でも魔法でもなく「環境要因」が人間の行動を決定づける側面を示している。
少女の行動は安易な非行ではなく、生きづらさから生まれた選択の一つに過ぎない。
逃れるための手段が薬物であっただけで、根底にあるのは孤独と無価値感である。
科学がどれだけ発達しても、環境が変わらなければ、本人を救う土台は整わない。
このエピソードは、スキエンティア全体の中でも特に救いが少なく、人間の現実をそのまま突きつける。



ノーコメント。
第6話 ロボット
病気で余命が数年の男性が、介護ロボットと共に人生を振り返る話。
テーマは「人生の結末をどう受け入れるか」である。
主人公は人生に後悔がないわけではないが、自分の選択で歩んできた日々に一定の満足を持っている。
ロボットに語りながら人生の軌跡を整理する行為は、読者に“自分が人生の最終日に何を思うか”を自然と想像させる。
科学的補助はあくまで生活を支えるためのものであり、生の意味を決めるのは本人の価値観であるという構図が明確に描かれている。
この話は、短編集の中でも特に静かで落ち着いた余韻を残し、読者に深い内省を促す。



パートナーの介護ロボットと一緒に、自分の人生の軌跡を確認する情景が泣ける。
人生に全力を尽くしてきたか自分で問うシーンが心に響く。
自分の人生なので他人にとやかく言われる筋合いはないし、ほどほどで生きると決めたのならそれで良い。
だけれど人生の最期が徐々に近づいてきたときに後悔のないように生きていきたい。
第7話 覚醒機
売れない二人のミュージシャンが、人生の覚悟を問われる物語。
覚醒機は「使えば確実に成功できるが寿命が縮む」という極端な道具であり、二人の価値観を対照的に浮き上がらせる。
命を削ってでも成功を掴みたい男。
家族や恋人を大切にしながら、自分のペースで音楽を続けたい男。
二人の選択はどちらが正しいという話ではなく、何を優先する人生を選ぶかという問題である。
物語が提示する結論は一貫している。
科学的手段によって“成功”は買えるかもしれないが、“自分が納得して生きられる人生”は買えない。
非常に短い話でありながら、生き方を根本から問い直す力を持つエピソードとなっている。



二人の対比が面白い。
人の生き方にどっちが正しいとかもないと思うし、自分自身が納得した上でその道を選んでいるならそれで良いと思う。
中の人のあとがき



話の筋に人間ならではの悩みがある。
身体が不自由。
人を好きになれない。
最愛の家族を亡くした。
家庭環境の悪さ。
病気。
才能。
これらの悩みを科学の力で何とかしようともがくのだけれど、最終的には自分自身の心の在り方次第だと思った。
あくまでも科学は心を助けるための補助であって、立ち直るのは自分の力。
とはいえ人生には無限にも思える選択肢があり、どれを選択してもそれなりに後悔があるとは思う。
後悔をしないためには、自分自身が納得できるかどうかだと思う。
全7話でそれぞれの人生を体験できる素晴らしい作品です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
この記事が『スキエンティア』に興味を持つきっかけになれば幸いです。


『スキエンティア』を読む



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