『いのまま』はなぜ何も考えずに読めるのか｜気分と記憶を描く日常エッセイ漫画

今回ご紹介する漫画は『いのまま』(全1巻/オカヤイヅミ)

本記事では、日常エッセイ漫画『いのまま』が、なぜ「何も考えずに読める」のか、その理由を言語化する。
料理や出来事そのものではなく、そこから立ち上がる感情や記憶の揺れに注目しながら、本作が描く“大人になった実感”とノスタルジーの正体を整理していく。

『いのまま』ってどんな漫画？

『いのまま』は、一人暮らしの部屋で漫画やイラストを描きながら暮らす、オカヤイヅミ先生自身の食生活と日常を描いたエッセイ漫画である。
ただし本作の主役は料理ではない。

料理はあくまできっかけであり、描かれているのは
・その食べ物に結びついた記憶
・過去の自分と現在の自分の距離
・人との関係性が変化していく感覚

そうした「生活の中でふと立ち上がる気分」である。

派手な事件は起こらない。
感情を強く揺さぶる演出もない。
それでも読み終えたあと、不思議と心が静かに満たされる作品だ。

こんな人に読んで欲しい

・ゆるい大人の自覚がある人
・自炊が好きな人
・ノスタルジィ感を味わいたい人

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『いのまま』が心地よく読める理由

― 記憶と感情をそっと呼び起こす構造 ―

子どもの頃、世界は広くて、同時にとても狭かった

Vol.1「あんかけ焼きそば」で描かれるのは、小学生時代の友人との距離感である。
一人で袋ラーメンを作って食べられる友人を前に、子どもながらに感じた「住んでいる世界の違い」

羨ましさとも、劣等感とも違う。
ただ「自分とは違う場所にいる人間がいる」と知ってしまった感覚。

その違和感は説明されすぎることなく、淡々と描かれる。
だからこそ読者は、自分自身の過去の記憶を自然に重ねてしまう。

「わからないもの」が不安だった時代

Vol.10「とうもろこし奴」では、子どもの頃の不安がよりはっきりと描かれる。
知らないバス停、知らない場所、知らない味。

冷や奴は、ねぎとおかかとしょうゆ。
知っている味がいい。

この感覚は、理屈ではない。
世界がまだ小さかった頃、未知のものは楽しみよりも恐怖に近かった。

それから三十年が経ち、欲しいものは自分で買え、知らないバスにも乗れるようになる。

大人になることの自由と引き換えに、かつての自分にはできなかったことが、今ならできると知ってしまう。

パンは「一緒にさぼってくれる」存在

Vol.12「高菜チーズトースト」で語られるのは、食事に対する無意識のルールである。

米の飯は「食事」
きちんと座って、きちんと向き合うもの。

一方でパンは、おやつにもなり、食事にもなり、少しだけ人生をサボらせてくれる存在。

この視点は、料理の話でありながら、完全に生活の話である。
何を食べるかではなく、どう生きているかがにじみ出る。

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