【アヴァルト】狂気の神が支配するMMORPG世界｜SF×神話が融合した異色ファンタジー

2019年7月29日2025年11月5日

この記事を読むと、『アヴァルト』の物語構造と世界観、そして“神と人間の関係”をテーマにした深いメッセージがわかります。

オンラインゲーム的なスリル、SFのスケール、哲学的な問い――
それらがすべて融合した本作は、まさに“読むMMORPG”。
ファンタジー好き・SF好きのどちらにも刺さる、異色のダークファンタジーです。

『アヴァルト』ってどんな漫画？

『アヴァルト』は、SF・神話・MMORPGを融合させたダークファンタジー。
地球上での冒険は「ドラクエ」や「FF」のようなファンタジー色が強く、宇宙では「2001年宇宙の旅」を思わせるSF世界へと転じます。

人間が神に裁かれる世界。
神は“バグ”のように世界を修正し、モンスターを“データ”として消去する。
そこに生まれるのは、善悪の境界が崩れた“狂った神話”。

作者・光永康則らしいテンポの良いセリフ回しと、読者を置き去りにしない絶妙な世界構築が光ります。

壮大なSFの設定を持ちながらも、根底に流れるテーマは「人間とは何か」。
“神に造られた存在が神を超える”という構図は、古典SFの香りを漂わせつつも、どこか現代的なリアリティを持っています。

『アヴァルト』のおすすめポイント💡

・MMORPG的構成×哲学的テーマの融合
・地球と宇宙、2つのスケールを行き来する物語
・“人間VS神”の構図が描く、存在のアイロニー

作品情報

作品名	アヴァルト
作者	光永康則
巻数	全6巻
ジャンル	SF/MMORPG/神/カエル/アバター/ゲーム
掲載誌	月刊少年シリウス
連載期間	2015年から2017年

MMORPGをベースに、地球滅亡後と宇宙の未来を交錯させたSF群像劇。
精密な設定とテンポの良い展開で、光永康則の新境地を感じられる一作です。

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MMORPG的構成×哲学的テーマの融合

『アヴァルト』の最大の魅力は、MMORPG的な構造と哲学的テーマの融合です。
物語はゲーム的世界観をベースにしながら、人間の存在や意識の本質を問う“思索型SFファンタジー”として展開します。

主人公のロイド・コスギは「ログイン」と「ログアウト」を繰り返し、ゲーム世界（地上）と現実世界（宇宙）を往復します。
地上でも宇宙でも…どちらの世界もともに大ピンチ。
この“二重構造”が、本作に特有の没入感を生み出しているのです。

プレイヤーが神を演じるのか、神がプレイヤーを操るのか――。
『アヴァルト』ではその問いが物語全体を貫いています。
作中の神々は、ゲーム世界を支配する存在でありながら、彼ら自身もまたシステムに従う“プログラムの一部”である可能性が示唆されます。
つまりこの作品では、「創造主」と「被創造物」の関係すら揺らいでいるのです。

MMORPGではプレイヤーがキャラクターを通して別の自分を体験しますが、『アヴァルト』ではその構造自体が物語の核心になっています。
プレイヤー＝人間、キャラクター＝神、システム＝宇宙という多重構造の中で、“自我とは何か”“魂はどこに宿るのか”という哲学的なテーマが浮かび上がります。

この仕掛けが巧妙なのは、ゲーム世界での行動がそのまま現実世界に反映される点です。
まるで「神の視点」と「人間の視点」を同時に体験しているような錯覚を覚える。
そして読者自身が、登場人物と同じく“プレイヤー”の一人であるかのように感じてしまうのです。

その体験こそ、『アヴァルト』が単なるゲームSFではなく、哲学的寓話として成立している理由です。
光永康則が描く“仮想空間の中の神”は、現代のテクノロジー社会におけるAI・アルゴリズム・支配構造の象徴でもあり、読後には「私たちが生きている現実もまた、プログラムなのでは？」と考えさせられます。

MMORPGの世界観を軸にしながら、宗教哲学や存在論まで掘り下げる。
その高密度な融合こそが、『アヴァルト』の真価なのです。

地球と宇宙、2つのスケールを行き来する物語

『アヴァルト』は、地球と宇宙という二つのスケールを縦横に行き来する壮大な構成を持っています。
この作品の時間軸は「1万年後の未来」。
人類が滅び、文明が失われた世界で、人間と神、そして人工知能が織りなす物語が描かれます。

地上では剣と魔法のファンタジーが展開し、宇宙では冷凍睡眠から目覚めた人が“地球消滅の真相”を探るSFサスペンスが進行する。
この二つの物語は独立しているように見えて、やがてひとつの真実へと収束していきます。

地球で起きた神話的な出来事と、宇宙で進む科学的探査がシンクロする構造は圧巻です。
“過去と未来”“神話とテクノロジー”が重なり合う瞬間に、読者は現実の時間感覚すら失っていくでしょう。

とくに印象的なのは、地上と宇宙のビジュアルコントラストです。
地上は荒廃した神話世界で、神々が剣を振るう。
一方、宇宙は無機質な空間で、生命の痕跡はほとんどない。
この対比が「人類の進化と退化」を象徴しているように感じられます。

また、1万年という時間スケールがもたらす“孤独感”も作品の核です。
文明が滅びた地球を見下ろす宇宙船の中で、主人公は「なぜ人間は神を求め、神に滅ぼされたのか」という根源的な問いに直面します。
それは宗教的であり、同時に非常に人間的なテーマでもあります。

この地球と宇宙の往来は、単なる舞台移動ではありません。
それは“内なる宇宙（心）”と“外なる宇宙（世界）”を行き来する精神的旅なのです。
読者は登場人物たちと共に、自我・信仰・記憶といった“人間の中にある宇宙”を探る旅へと誘われていきます。

『アヴァルト』は、スケールの大きさだけでなく、その世界の繋がりを論理的かつ詩的に描く点で、日本SFの中でも特異な存在です。
ファンタジーとして読んでも、ハードSFとして読んでも、
どちらの側面でも成立してしまう稀有な作品なのです。

“人間VS神”の構図が描く、存在のアイロニー

『アヴァルト』のテーマの核心にあるのは、“人間VS神”という普遍的な構図です。
しかし光永康則先生は、それを単なる対立や宗教ドラマとしてではなく、“存在そのもののアイロニー（皮肉）”として描いています。

この世界では、神は人間を裁く存在であり、同時に世界をリセットするプログラムでもある。
つまり“善”の象徴であるはずの神が、世界を破壊する“悪”へと変貌するのです。
その行為には明確な悪意があるわけではなく、むしろ論理的な正義による排除。
だからこそ恐ろしく、読者に倫理観の崩壊を突きつけます。

一方、人間たちは神に創られた存在でありながら、その創造主に反抗し、神を否定しようとする。
この“創造と反逆の連鎖”こそが『アヴァルト』の本質です。
神が世界を創り、人間が神を創り直し、また神が人間を滅ぼす。
この果てしないサイクルが、まるで宇宙の呼吸のように繰り返されていきます。

ここには、AIと人間の関係にも通じる現代的な皮肉が潜んでいます。
AIを創った人間が、いつかAIに支配される――。
まさにそれと同じ構図が、神と人間の関係に重ねられているのです。

登場人物たちは皆、己の存在理由を探し続けます。
「なぜ生まれたのか」「自分は本当に自由なのか」という根源的な疑問に対し、誰も明確な答えを持たない。
それでもなお“自分の意思で抗う”という姿勢が、『アヴァルト』における人間賛歌のように輝きます。

本作の結末は、単なる勝敗ではありません。
神を倒すことが目的ではなく、“神を理解すること”そのものが救いなのです。
神と人間の関係は、支配と従属ではなく、創造と共存の循環。
その矛盾の中で、読者は“存在とは何か”という究極の問いへ導かれていきます。

『アヴァルト』は、人間が神を描くことの意味そのものを問う、
深淵で壮大な哲学的ファンタジーなのです。

まとめ

漫画の旅人

MMORPGやゲームの設定を上手く組み込んだお話。
地上ではドラクエやFFの様なファンタジー色の強いお話。
宇宙ではSFのお話。
ログインとログアウトを繰り返しながら地上と宇宙の謎を解いていくロイド。
設定が練られており話もテンポよく進みます。
少し惜しいと思ったのが、冒険感がもう少し欲しかったなと。
ストーリー内では不思議のダンジョン的施設が出てきて、そこでレアアイテムのドロップとレベルアップを兼ねる事になる。
結果、世界は地球丸ごとの広さがあるのに世界観が狭くなってしまったかな、と感じました。
読み手の好みもあるので賛否分かれますね。
この記事が『アヴァルト』に興味を持つきっかけになれば幸いです。