【よしづきくみち短編集 君と僕のアシアト】心に残る“痕跡”を描いた名作を徹底解説

※本ページに記載の内容は、記事作成時または更新時のものです。またPRが含まれています。

過去の自分、すれ違った思い、取り戻せない時間。
『よしづきくみち短編集 君と僕のアシアト』は、そんな“心に残った痕跡”をそっと描き出す物語集です。

現実の延長線上にありそうな世界で、登場人物が抱える後悔や迷いが丁寧に描かれ、物語を読み進めるほどに「自分にも似た経験がある」と心を揺らされます。

作風は淡く繊細で、感情の流れをすくうような構成。
静かなトーンながら、胸の奥を刺激する短編集です。

目次

『よしづきくみち短編集 君と僕のアシアト』ってどんな漫画?

魔法遣いに大切なこと】の作者、よしづきくみち先生の2冊目の短編集です。

1話ごとに異なる物語が展開されるものの、どの作品にも「感情の揺らぎ」と「人間の弱さに寄り添う視点」が貫かれています。
説明を削ぎ落とし、余白の力で読者に考えさせる構成が特徴で、読後に静かな余韻が残る短編集です。

以下の作品が収録されています。

『君と僕のアシアト〜タイムトラベル春日研究所〜』
オースーパージャンプ 2007年4月号から 2007年9月号掲載。
タイムトラベルをして過去を確認して前向きになるお話。
後に『君と僕のアシアト~タイムトラベル春日研究所~』として連載化する。

『彼女のせかい』
2007年 同人誌掲載。
不思議な世界観。
特に説明もないので設定が気になる。
鉛筆書きが特徴。

『about me』
2007年 同人誌掲載。
島に暮らす女の子と東京から引っ越してきた女の子の話。
自分の意思はあるけれど、力が無く子供の無力さを描いている。

『け・ん・か』
ヤングアニマルあいらんど 2007年11月11日号掲載。
高校生の男女の他愛もないけんかのお話。
読んでてなんか『ぬぁぁぁぁっ』てなる。

『てのひら』
2005年 同人誌掲載。
女の子の友情のお話。
説明しにくいけれど同じ歩幅で歩くことができなくなる切なさを描いている。

『なつみ』
2005年 同人誌掲載。
子供のころのトラウマと罪悪感のお話。
個人的に一番考えさせられた作品。

また作品が終わるごとに、よしづ先生自身から作品解説があります。

作品情報

作品名よしづきくみち短編集 君と僕のアシアト
作者よしづきくみち
巻数全1巻
ジャンルファンタジー/日常/タイムトラベル/島/手
発売年2008年

気になった方は、まず試し読みしてみてください👇

『よしづきくみち短編集 君と僕のアシアト』のおすすめポイント3

① 感情の揺らぎと“説明しすぎない”表現

『君と僕のアシアト』最大の特徴は、よしづきくみち作品らしい「説明しない表現」が徹底されている点である。
物語の中心には常に登場人物の感情があるものの、その心情が言語化されることは少ない。
代わりに、表情のわずかな変化、視線の向け方、沈黙の長さ、歩くスピードの違いといった“言葉にならない情報”が丁寧に配置され、読者はそれらを読み取りながら人物の内面に近づいていくことになる。

典型例が「てのひら」である。
大人の目から見れば些細な出来事にすぎないのに、子どもたちが抱える関係のズレが、日常の動作を通して静かに示される。
二人の歩幅が合わなくなる場面は象徴的で、派手な出来事が起こらなくても、人と人の距離がゆっくり変化していく感覚が胸に刺さる。
説明はされないが、誰しも経験したことのある“そのとき言葉にできなかった痛み”が鮮明によみがえる。

「彼女のせかい」では設定そのものが曖昧で、不思議な世界観の説明もほぼない。
だがその“わからなさ”が登場人物の心情と連動しており、読者は世界の違和感を通して少女の戸惑いや孤独を追体験することになる。
環境が心の揺らぎににじむ構造は、よしづき作品の中でも特に印象深い。

この短編集は、読者に“読み取らせる”余白が非常に広い。
登場人物の心の動きが言葉で説明されないからこそ、読者それぞれの人生経験が感情の補完を行い、作品の印象が人によって大きく変わる。
“泣ける”というより“胸の奥で静かに刺さる”感覚に近い。
作品を読み終えたあと、しばらく自分の記憶を掘り返してしまうような余韻が残る。
これこそが、『よしづきくみち短編集』に流れる独特の強さである。

② 子どもの視点で描かれる「理解できない痛み」

この短編集で中心に描かれるのは、子どもや思春期の若者たちである。
しかし作品が扱うテーマは決して“子ども向け”ではない。
むしろ、幼いからこそ整理できない痛み、理解できないまま抱える後悔、言葉にできないまま積もる罪悪感といった、人間の本質的な苦しみを扱っている点に特徴がある。

代表作の「なつみ」はその象徴である。
子ども時代のトラウマや、誰にも言えなかった罪悪感が静かに描かれ、大人になった読者が振り返ると胸がつまるような感覚を呼び起こす。
作中で明確な事件が語られるわけではないが、断片的な描写の積み重ねだけで、幼い主人公が何を抱え、どれほど苦しんでいるのかが痛いほど伝わる。

この短編集に登場する子どもたちは、未熟ではあるが単純ではない。
彼らが抱える感情は複雑で、多くの場合自分自身でも理解しきれていない。
だからこそ読者は、過去の自分の記憶を引きずり出されるような読後感を味わう。
“あの時言えなかった言葉”“あの時理解できなかったこと”が、作品を通して浮かび上がってくる。

『君と僕のアシアト』が多くの読者に強い印象を残すのは、この「理解できない痛み」を静かに、丁寧にすくい上げている点にある。

③ ファンタジー要素と日常が交差する独自の世界観

短編集の中には、現実の延長線上にある物語だけでなく、軽くファンタジーを含んだ作品も存在する。
これらは決して“現実逃避”として描かれない。
むしろファンタジー要素が加わることで、登場人物たちの現実の痛みや後悔がより鮮明に浮かび上がる構造になっている点が特徴的である。

象徴的なのが「君と僕のアシアト~タイムトラベル春日研究所~」だ。
過去へ戻るという設定自体はSF的だが、目的は派手な冒険でも大きな改変でもない。
“確認したいことを確かめる”という、極めて個人的でささやかな動機が中心にある。
だからこそ読者は、もし自分も過去に戻れるなら「何を確かめたいのか」「誰に言葉を伝えたいのか」と、自分自身の記憶と重ね合わせてしまう。

ファンタジー要素は、登場人物の心情に寄り添うための道具として機能している。
現実では解決できない葛藤や後悔に向き合うための“装置”となり、読者が物語の核心に踏み込む助けとなる。
よしづき作品は、現実と非現実の境界が曖昧な空気感を作り出すのが非常に上手く、その曖昧さが読後の余韻につながっている。

また、ファンタジーと言っても突飛な設定ではなく、日常のすぐ隣にある“もう一つの世界”として描かれる。
そのため読者は自然に物語へ没入でき、非現実的な出来事にも感情的な説得力が生まれる。

短編集全体を見ると、日常パートの静けさと、ふとした瞬間に差し込まれる非日常の影が交互に現れ、独特のリズムを生み出している。
終わったあとに言葉では説明できない余韻が残るのは、この日常とファンタジーの絶妙な交差によるものだ。

中の人のあとがき

漫画の旅人

全体的に切ない話が多い。
ただよしづき先生の特徴でもある、可愛い女子、ファンタジーワールドは散りばめられています。
個人的に好きな作品は『なつみ』
子供心の恐怖と子供ながらに恐怖を与えていたのを気づくリアルさ。
現実世界でも十分あり得ることで、頭では理解していても心が追い付かないことが時々ある。
そんな人にできる事は少ないかもしれないけれど、できるだけ手を差し伸べないといけないと思った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
この記事が『よしづきくみち短編集 君と僕のアシアト』に興味を持つきっかけになれば幸いです。

『よしづきくみち短編集 君と僕のアシアト』を読む

漫画の旅人

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